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横浜地方裁判所 昭和30年(行)12号 判決

原告 小泉スキ

被告 横浜市長・神奈川県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告横浜市長が昭和三十年三月三十一日付をもつて被告神奈川県知事の認可を受けた横浜特別都市計画事業復興土地区画整理藤棚地区にかかる元横浜市西区藤棚町一丁目九十四番地宅地二百五十九坪三合に対する現同所九十五番地宅地二百十一坪三合六勺の換地処分、及び現同所九十四番地公共小施設十二歩並びに現同所同番地の一通路六坪に関する特別処分はいずれも無効であることを確認する。右無効確認が理由がないときは右各処分を取消す。被告神奈川県知事が昭和三十年三月三十一日付をもつてなした横浜特別都市計画事業復興土地区画整理藤棚地区にかかる換地処分及び特別処分の認可中第一項記載の土地に対する認可処分は無効であることを確認する。右無効確認が理由ないときは右認可処分を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、(一) 被告横浜市長は特別都市計画法第五条の規定により施行せられる横浜特別都市計画事業復興土地区画整理をなす権限を有する行政庁であり、被告神奈川県知事は耕地整理法第三十条第三項の規定により前記横浜市長が施行する換地処分並びに特別処分を認可する権限を有する行政庁である。

(二) しかして、被告横浜市長は昭和二十二年頃原告所有の横浜市西区藤棚町一丁目九十四番地所在の別紙添付図面赤線(注、本書ではて表示太字線をもつした。)で表示の如き宅地二百五十九坪三合(以下従前の原告所有土地と略称する。)を横浜特別都市計画事業復興土地区画整理藤棚地区に編入し同年十二月六日被告神奈川県知事は之を認可し神奈川県告示第四九四号を以てこれが公示をなした。

(三) 次いで被告横浜市長は昭和二十五年三月二十二日に従前の土地の東側角地の一部分六坪(現在藤棚町一丁目九十四番地の一通路)及び十二坪(現在藤棚町一丁目九十四番地公共小施設敷十二坪)合計十八坪の内十四坪を交番用敷地として、又従前の原告所有土地に対する換地予定地として横浜市西区藤棚町一丁目九十四番地宅地二百十一坪四合七勺を指定し原告に通知してきた。

そして更に被告横浜市長は昭和三十年三月三十日別紙添付図面黒線で表示の如く従前の原告所有土地に対する換地を藤棚町一丁目九十五番地宅地二百十一坪三合六勺とする旨の換地処分(以下本件換地処分という。)及び従前の原告所有土地の一部に同所九十四番地公共小施設敷十二坪及び同所同番の一通路六坪を設定しこれを横浜市の市有土地に編入する旨の特別処分(以下本件特別処分という。)の各決定をなし、同月三十一日本件換地処分及び特別処分につき被告神奈川県知事の認可を受けた。

(四) 原告は被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分及びこれに対する被告神奈川県知事の認可処分(以下本件認可処分という。)により従前の土地とその換地との地積上の減歩差四十七坪九合四勺を喪失し、しかも減歩の中に含まれた本件特別処分により設置せられた公共小施設敷十二坪及びこれに隣接する通路六坪は通称藤棚商店街の東側入口に位置する角地で特別の価値ある土地であつたため、原告は昭和三十年五月二十八日被告神奈川県知事に対し本件換地処分並びに特別処分の変更を求める訴願を提起したがその裁決がなされていない。

二、しかしながら、被告横浜市長のなした本件換地処分及び特別処分は次の如き瑕疵が存するものである。

(一)  本件換地処分及び特別処分は耕地整理法第三十条第一項本文に違反するものである。

けだし、従前の原告所有土地はもと二百五十九坪三合の地積を有し、別紙添付図面赤線(注、本書では太字線をもつて表示した。)で表示の如く藤棚商店街東側入口の角地に位置し、その形状はほぼ角錐面をなし三方が道路に面していたものであるところ、耕地整理法第三十条第一項本文により換地は従前の土地の地目、地積、等位等を標準として交付すべきものであるにもかかわらず、これを無視した本件換地処分並びにこれと同時に横浜特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十一条に該当するものとしてなされた本件特別処分の結果、その地積は四十七坪九合四勺を減歩されて二百十一坪三合六勺となり、その形状も別紙添付図面黒線で表示の如く東西にのびる梯形の東方の角を三角に切り落した形状となり、しかもその上本件特別処分により右三角の部分に公共小施設敷並びに通路が設置されたため、商店街入口の鼻先に通路をへだてて交番用敷地があり、従前は三方が道路に面して歩行者・顧客等が自然に集り商店街として十二分にその地積を利用し得る絶好の状態にあつたものが商店街として利用するにはすこぶる困難な位置形状となり、その価値は著しく減損した。

しかも本件特別処分により交番用敷地と定められた公共小施設敷は商店街入口角地に位置し、かかる場所に交番を設置しなければならない必要性のないことは、原告が昭和二十五年五月頃横浜市及び藤棚地区々画整理委員会から警察当局の諒承を得れば本件換地処分を変更する旨の申入れを受け横浜市及び横浜市警戸部警察署長と折衝の結果交番用敷地は本件特別処分により指定された角地に限らないから市電の藤棚停留所から境の谷停留所寄り稲荷台小学校登口道路迄の間の電車通りに交番用敷地を用意すれば前記角地と交換しても良いとの承諾を得、奔走の結果、藤棚町一丁目五十二番地宅地十四坪九合八勺を同地上の家屋と共に金百五〇万円で買入れ、家屋を取毀して整地し提供の準備をなした事情に徴しても明らかである。

しかりとすれば本件特別処分の土地合計十八坪は本件換地処分により当然に原告に交付せらるべきものであつたのにもかかわらずこれを無視してなした被告横浜市長の本件換地処分及び特別処分は耕地整理法第三十条第一項本文に違反するものである。

(二)  本件換地処分及び特別処分は原告に対する通知を欠いているものであるから違法である。即ち

被告横浜市長は本件換地処分及び特別処分をなすに当つて、最も利害関係の深い原告に対し何らの通知もなさず被告神奈川県知事の認可を受けたものである。

かかる被告横浜市長の行為は個人の財産権に対する重大な侵害であつて、憲法第二十九条第一項に違反するのみならず耕地整理法第三十五条の趣旨にも違反するものである。

(三)  本件換地処分及び特別処分は特別都市計画法第七条第二項に違反するものである。即ち

特別都市計画法第七条第二項によれば宅地の規模を適正ならしめる必要上大なる宅地の地積を減少して過少宅地の地積を増して換地を交付することができることになつているものである。

しかして、本件土地はもともと商業地であり商店街として繁栄してきたところであるから換地を決定するに際しては従前の事情を十二分に考慮するのが当然であるのにもかかわらず、被告横浜市長は之を無視し、原告の所有地を従前の土地の約二割にあたる四十七坪九合四勺を減歩し、これによつて得た余剰土地の中から交番用敷地及び通路敷地合計十八坪を保留する本件換地処分及び特別処分を行つたものである。

しかしながら被告横浜市長のかかる処分は大なる地積を有する宅地を減少して過少なる地積を有する宅地の地積を増して換地する場合に該当せざるものであるから特別都市計画法第七条第二項に違反するものである。

(四)  本件換地処分及び特別処分は耕地整理法第四十四条第一項に違反するものである。即ち

耕地整理法第四十四条第一項によれば特別の価値ある土地は土地所有者及び関係人の同意がなければ整理地区に編入し得ないこととなつている。しかして従前の原告所有地は前述の如く元藤棚中央商店街東側入口の角地にあつて、同商店街繁栄のため枢要の位置をしめ、区画整理を行わず従前のままでも特別の価値を発揮し得る土地であつた。従つてかかる土地を整理地区に編入する場合においては耕地整理法第四十四条第一項により土地所有者である原告及び関係人の同意を得べきであるにもかかわらず、被告横浜市長は全くその同意を得なかつた。しかも従前の原告所有土地は前記の如く角地であるため区画整理から除外しても差しつかえないところであるから、同条同項但書の同意なくしても整理地区に編入しなければ整理を適当に施行することができない場合にも該当しない。

しかりとすれば、前記の如く原告の同意を得ずして従前の原告所有土地を区画整理地区に編入してなした本件換地処分及び特別処分は耕地整理法第四十四条第一項に違反するものである。

(五)  本件特別処分は都市計画法第十五条の三、同法施行令第二十条の三、同条の四に違反するものである。即ち、

都市計画法第十五条の三によれば土地区画整理の施行により公共の用に供すべきものとなつた公共用地等を国又は公共団体所有地に無償編入し得ることとなつているが、都市計画法施行令第二十条の三には「公共の用に供すべきものとなりたる土地とは土地区画整理の施行により新設又は拡張したる道路、広場、堤塘、溝渠、運河、河川、公共物揚場、公園又は緑地の用に供すべきものとなりたる土地を謂う」と規定しているものであり、この内には交番用地及び通路は含まれていない。横浜特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十一条は「整理施行により開設したる通路又は公共用小施設の敷地は無償でこれを市の所有地に編入することができる」と規定しているが、右は前記都市計画法第十五条の三、同法施行令第二十条の三、及び四に違反し無効なものである。従つてこれにもとづき前記公共小施設敷及び通路を横浜市の所有地に編入した本件特別処分は無効である。

(六)  本件特別処分は憲法第二十九条に違反するものである。即ち、

被告横浜市長は当然原告に換地として交付すべき土地の一部に公共小施設敷及び通路を設定し、これを横浜市に無償交付して市有地に編入する本件特別処分をなしたものであるが、このことはまさに原告の財産権を公共のために用いた場合に該当する。

しかして、本件公共小施設敷並びに通路の設定及びこれらの敷地を無償で横浜市の市有地に編入する特別処分が、特別都市計画法施行令第四十四条による特別処分とすれば、同条による特別処分には私有財産に対する正当な補償に関する規定がないから憲法第二十九条に違反する無効な規定である。しかりとすれば右規定にもとづきなされた本件特別処分も又無効といわざるを得ないものである。

仮りに特別都市計画法施行令第四十四条が憲法第二十九条に違反しないとしても、被告横浜市長は本件特別処分によつて原告の所有土地が減少し、且つこれを公共の用に供する場合であるから私有財産に対する正当な補償をなすべきであるのにもかかわらずこれをなさないものであるから、本件特別処分は憲法第二十九条に違反するものというべきである。

以上(一)乃至(六)のいずれの事由によつても被告横浜市長のなした本件換地処分及び特別処分は重大かつ明白な瑕疵があるから無効というべく、従つてこれを認可した被告神奈川県知事の本件認可処分も又無効というべく、仮りにしからずとするも前記(一)乃至(六)のいずれの事由によつても被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分は取消されるべきものであり、従つてこれを認可した被告神奈川県知事の本件認可処分も又取消されるべきであるから、従前の原告所有土地に対する所有権にもとずき請求の趣旨の如き判決を求めるため本件請求に及ぶと述べ、

被告横浜市長の本案前の主張並びに被告等の本案前の主張に対し、

いずれもこれを争うと述べた。

(証拠省略)

被告横浜市長代理人は、「原告の本件訴を却下する」との判決を求め、その理由として、

原告は本件訴において、最初横浜市を被告とし、後にこれを横浜市長に変更した。しかしながら行政事件訴訟特例法第七条により被告の変更をなすことができるのは、行政庁が為した処分の取消又は変更を求める場合に限られ、本件訴の如き行政庁の処分の無効確認を求める場合には被告の変更は許されない。従つて、本件訴において被告を横浜市から横浜市長に変更することは許されず、従つて原告の被告横浜市長に対する訴は不適法として却下さるべきである。

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、

本案前の主張として、

一、原告は本件各請求につき訴訟法上の利益を有しないものであるから、原告の本件各請求は失当である。即ち、

原告は本件公共小施設敷及び通路の敷地は従前は原告の所有土地であつたから公共小施設敷及び通路の設定並びに横浜市市有財産への編入処分たる本件特別処分が無効又は取消となれば、この土地は当然原告の所有に復するものの如く主張している。しかしながら原告の従前の所有土地横浜市西区藤棚町一丁目九十四番地宅地二百五十九坪三合は本件換地処分の結果同所九十五番地宅地二百十一坪三合六勺に移動し、原告はその所有権を取得し、その旨の登記も昭和三十年四月二十五日了したものであり、この換地の所有権取得は原告のため確定しているものである。

しかりとすれば、原告は現在従前の土地に対し何らの権利を有するものではないから、従前の原告所有土地の一部になされた本件特別処分が無効又は取消となつても、原告の前記換地に対する所有権にも原告の従前の土地に対する所有権にも全然影響を与えるものではなく、単に被告横浜市長が新らたに該土地に対する処分をなすべきものにすぎない。

そうすると、原告は本件各請求につき何ら訴訟法上の利益を有するものではないから原告の本件各請求は失当というべきである。

二、原告は本件各請求を求める基本権を有しないから原告の本件各請求は失当である。

原告は本件各請求の基本権を従前の土地に対する所有権であると主張するが、原告が従前の土地の所有権を失つたのは、本件特別処分によるものではなく、従前の原告所有土地に対する本件換地処分によるものであり、しかもこの換地処分は前記の如く既に確定しているものであるから、仮りに本件特別処分が無効又は取消となつても従前の原告所有土地の所有権は原告に回復さるべきものではない。しからば原告は本件各請求の基本権として主張する従前の土地の所有権を有しないことは勿論回復されるべき所有権をも有しないものであるから、本件各請求についての基本権を全然有しないものというべく、従つて原告の本件各請求は訴訟法上の利益を有しないものであるから失当というべきである。

請求原因についての答弁

原告主張第一項のうち、

(一)及び(二)の事実は認める。

(三)の事実のうち、原告主張の区画整理の施行として被告横浜市長が昭和二十五年三月二十二日原告に対し換地予定地指定の通知をしたこと、従前の原告所有土地の換地予定地が右指定通知において原告主張の藤棚町一丁目九十五番地二百十一坪四合七勺とされたこと、被告横浜市長が昭和三十年三月三十日本件換地処分並びに特別処分決定をなし、同月三十一日付をもつて被告神奈川県知事がこれを認可したことは認める。その余は否認する。

被告横浜市長は交番用敷地のため従前の原告所有土地の角地に公共小施設敷を指定したが、最初は十二坪ではなく十四坪であつた。そして最初の計画では原告の交付を受ける換地は交番用敷地と接着し角地でなくなるため原告より角地にしてほしいとの申出があつたので、被告横浜市長はその申出を容れ、交番用敷地より六坪をさき、原告の土地との間に最初の計画になかつた通路六坪を横浜市のために設定し、原告が交付を受ける換地を角地となるようにしたものである。右のため交番用敷地のための前記公共小施設敷は八坪となつたので、最初の計画では道路となる部分に右公共小施設敷を四坪はみ出させてこれを十二坪と変更したものである。又従前の原告所有土地に対する換地はその予定地指定通知においては前記の如く二百十一坪四合七勺であつたが、測量の結果その誤差が発見されたため二百十一坪三合六勺と訂正して本件換地処分決定をなし、被告神奈川県知事より認可を得たものである。

(四)のうち、原告が昭和三十年五月二十八日被告神奈川県知事に対し本件換地処分並びに特別処分の変更を求める訴願を提起したこと、それに対する裁決がされていないことは認めるがその余は否認する。

第二項の(一)の主張につき、

原告が横浜市警戸部警察署長等と本件換地等につき折衝を重ねていた事実は不知、仮りに何らかの折衝がなされたとしても土地区画整理施行者たる横浜市長の意見にもとづくものではない。その余は否認する。

そもそも土地区画整理は宅地の利用増進のため土地の形態、形状の変更及び之に関連して公共小施設の新設、整備改善をなすことを目的とするものであるから、土地区画整理においてはその地区内の従前の各宅地の地積即ち坪数は全体的には当然に減少することとなるものである。

しかして、換地処分の標準は耕地整理法第三十条第一項本文により従前の土地の地目・地積・等位等を標準とするものであるが、必ずしも右標準により従前の土地と同一の土地の交付を要求するものではないことは同項但書に従前の土地と換地として交付される土地とが合致しない部分について金銭清算をなすべきことを定めていることにより明らかである。しかも土地区画整理においては従前の土地よりその換地として交付せられた土地の坪数が減少したからとて当然に金銭清算の問題を生ずるものではない。即ち特別都市計画法第十六条は同法第五条第一項の土地区画整理の施行により土地区画整理施行地区内に於ける施行後の宅地価額の総額が施行前の宅地価額の総額に比し減少したときは、その減少した額について土地所有者及び関係者に対し補償金を交付する旨を規定し、これを受けて同法施行令第三十七条はその算定方法として区画整理施行後の宅地価額の総額は、施行前の宅地価額の平均額に施行後の宅地地積の数を乗じて得た額に施行による宅地利用の増進率を乗じて得た額とする旨を規定している。

そこで右法律並びに施行令に従い、もつとも適切であると認められる路線価式評価方法により本件藤棚地区々画整理の結果を算出すると、右藤棚区画整理地区は、

施行前宅地地積 六万三千七百三十五坪三合一勺

その価額    二億五千三百三十三万五十円

施行後宅地地積 五万五百二十五坪三合九勺

その価額    二億五千四百八十九万七千九百五十五円

となり、全体的に百五十六万七千九百五円の増加となつているものであり、その内原告の関係は、

施行前宅地地積 二百五十九坪三合

その価額    三百四十四万二千三百三十五円

施行後宅地地積 二百十一坪三合六勺

その価額    三百四十八万千九十五円

となり、地積は減少しているもののその価額においては三万八千七百六十円の増加をきたしているものである。

さらに又本件区画整理により従前道路上にあつた交番を収去するため従前の原告所有宅地の上に公共小施設敷を設定することとなつたのは公共の福祉上やむことを得ざる最少限度の措置であるが、しかしこれにより従前の原告所有土地の等位即ち位置、土質、水利、利用状況、環境が著しく変更されたものではなく、しかも被告横浜市長はこの公共小施設敷と原告の換地との間に巾員二米の通路を設けて一般公衆の通行の便に供し、原告の換地を従前通り角地ならしめたものであつて、その等位を奪つた事実はなく、そのため土地の価値を減少せしめたこともない。

従つて、これを要するに本件換地処分並びに特別処分は耕地整理法第三十条第一項本文に違反するものではなく、適法に行われたものである。

第二項の(二)の主張につき、

耕地整理法第三十五条は書類の送付を要すべきものの住所又は居所が不分明その他の事由により書類の送付をなすこと能わざる場合の規定であつて、本件換地処分並びに特別処分の認可告示の公告とは全然その性質を異にするものである。しかも、換地処分は地方長官が認可し、かつ、これを告示することによつて効力を生ずるのであるから、それ以前にこの換地処分について土地所有者に通知すべきものではなく、従つて法律もかかる通知を要すべきものと定めていない。又本件特別処分は原告の従前の土地であつた公共小施設敷及び通路の土地を換地予定地指定により原告の従前の土地から除外し、区画整理施行者たる被告横浜市長の権限下に収め、この土地を被告横浜市に移した処分であるから、この処分は原告には関係なく従つてこれを原告に通知すべきものではなく、法律も又通知を要すべきものとは定めていない。

よつていずれの通知も法律上要求されているものではなく、従つて通知をなさないことは何らの法律に違反せず、又憲法第二十九条に違反するとの問題も生ずる余地はない。

第二項の(三)について、

本件区画整理による換地坪数の減少は特別都市計画法第七条にもとづくものではない。そもそも本件換地処分は耕地整理法第三十条第一項にもとづくものであり、又土地区画整理においては都市計画法第十五条の三に定める如く道路、広場、公園その他公共の用に供すべき土地の設定ができ、その他の公用又は公共用土地の設定は特別都市計画法施行令第四十四条においてなし得るものである。

第二項の(四)について、

従前の原告の所有土地は耕地整理法第四十四条第一項本文に該当する土地ではない。仮りにしからずとするも同条同項但書に該当するものではない。

第二項の(五)について、

本件特別処分は都市計画法第十五条の三、同法施行令第二十条の三及び四によるものではなく、特別都市計画法施行令第四十四条によるものである。即ち、本件公共小施設敷の設定は交番設置を目的としてなされたものであつて、公用であり、本件通路は公衆の通行用に設定されたものであつて公共用であるが、これは道路法にもとづく道路ではないから都市計画法第十五条の三及び同法施行令第二十条の三所定の道路ではなく、これも又特別都市計画法第四十四条の特別処分によるものである。

又横浜特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十一条は、特別都市計画法施行令第四十四条の特別処分の手続を定めたものであるから無効の規定ではない。

よつて、本件特別処分は適法であつて何ら違法なものではない。

第二項の(六)について、

従前の原告所有土地に対しては前記の如く耕地整理法第三十条第一項によりその価額において対等額以上の換地が指定せられ、この換地の指定により本件公共小施設敷並びに通路の敷地は従前の原告所有土地から除外されたものである。即ち、本件公共小施設敷並びに通路の敷地はいわゆる減歩によつて新らたに被告横浜市長の権限下に収められた特殊な新らしい法律関係の土地であつて、特別都市計画法第十四条により原告はこの土地に対し使用収益権が廃止せられるのである。而して右特殊な新らしい法律関係の土地に土地区画整理施行者たる被告横浜市長が公共小施設敷を設定することも、通路を設定することもそれは被告横浜市長の権限であつて、これが設定は法律上原告には何らの関係もないのである。従つてこれについて、原告が何らの損害を受けるものではないから、原告に対する補償の問題は起り得ないものであり、右の如き特別都市計画法第四十四条の処分につき補償に関する規定のないのは当然であり、従つて又、現実の処分にあたつても之が補償をなすこともあり得ない。

之を要するに特別都市計画法第四十四条の規定は右の如き補償を要しない場合に関する規定であつて、憲法第二十九条には関係なく、又従つて之にもとづく行政処分も右憲法の規定とは無関係である。

以上の如く、被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分はいずれも適法なものであるから、これを認可した被告神奈川県知事の処分も又適法なものである、

と述べた。

(証拠省略)

理由

(本案前の判断)

一、まず被告横浜市長の主張につき判断する。

原告が当初横浜市及び神奈川県知事を被告として本件訴を提起し、昭和三十一年四月十二日の準備手続期日において被告横浜市を横浜市長に変更したことは記録上明らかであり、又原告の本件訴における第一次的請求が、被告横浜市長がなした本件換地処分及び特別処分はいずれも無効であることの確認、被告神奈川県知事がなした本件換地処分並びに特別処分に対する認可処分は無効であることの確認を求めるものであり、第二次的請求は本件換地処分並びに特別処分及び被告神奈川県知事のこれに対する認可処分の各取消を求めるものであることは原告の主張自体に徴し明らかである。

しかりとすれば原告の本件訴の第一次的請求は相対立する当事者間の公法上の権利関係の存否に関する訴訟である、いわゆる当事者訴訟に属するものであり、第二次的請求は行政庁の違法な処分の取消又は変更を求めるいわゆる抗告訴訟に属するものというべきである。

よつて右各請求について被告の変更が許されるものであるか否かにつき検討するに、行政事件訴訟特例法第七条第一項は、いわゆる抗告訴訟において原告が被告となすべき行政庁を誤つたときは訴訟係属中被告を変更し得る旨を規定する。しかして、行政処分の無効確認を求める訴訟においても、当該行政処分の違法を攻撃してその無効の確認を求める点において当該行政処分の違法の攻撃を主眼とするいわゆる抗告訴訟と共通の性格を有するものであるから、被告の変更について行政事件訴訟特例法第七条の類推適用をなすべきものと解するを相当とする。そうすると本件訴の各請求において被告横浜市長を誤つて横浜市となしたことについて特に原告に故意又は重大な過失があつたとは認められないからその被告の変更は許されるべきものというべきである。しかりとすれば被告横浜市長の本主張は理由がない。

二、次に被告等の主張につき判断するに、

原告の本件訴は単に被告横浜市長のなした本件特別処分並びに被告神奈川県知事のこれに対する認可処分の無効確認又はその取消を求めるものではなく、同時に被告横浜市長のなした本件換地処分並びに被告神奈川県知事のこれに対する認可処分の無効確認又はその取消を求めているものであることはその請求の趣旨より明らかである。しかりとすれば原告は第一次的には本件換地処分はその瑕疵のためその効力を生ぜず、従つてその換地は従前の土地と看做されることなく、なお原告は従前の土地について所有権を有する旨をも主張し、第二次的に仮りにしからずとするも本件換地処分は取消さるべきであり、その換地が従前の土地と看做される効力は消滅し、従前の土地に対する原告の所有権が引続き存することとなるべき旨をも主張するものである。

そうすると、本件換地処分は既に確定し争いなく、原告は単に本件特別処分の効力のみを争うものであるとの前提のもとになす被告等の一、二の主張はその余の点を判断する迄もなくいずれも失当というべきである。

(本案の判断)

一、原告請求原因第一項の(一)(二)の事実及び被告横浜市長が本件区画整理の施行として昭和二十五年三月二十二日原告に対し換地予定地指定の通知をなしたこと、右通知において従前の原告所有土地に対する換地予定地として横浜市西区藤棚町一丁目九十五番地二百十一坪四合七勺が指定されたこと被告横浜市長は昭和三十年三月三十日別紙添付図面黒線で表示の通り従前の原告所有土地に対する換地を藤棚町一丁目九十五番地宅地二百十一坪三合六勺とする旨の本件換地処分及び同所九十四番地十二坪を公共小施設敷とし、同所同番地の一、六坪を通路としこれを横浜市の市有土地に編入する旨の本件特別処分をなし、同月三十一日付で本件換地処分並びに特別処分につき被告神奈川県知事の認可を得たこと、原告が昭和三十年五月二十八日被告神奈川県知事に対し本件換地処分並びに特別処分の変更を求める訴願を提起したこと、これに対して裁決がなされていないことは当事者間に争いがない。

しかして成立に争いのない乙第十一号証の一、二並びに証人鎌田譲の証言によりその成立が認められる乙第二号証の一乃至四、証人常盤浄の証言によりその成立が認められる甲第四号証及び証人鎌田譲、同東山暁の各証言と前記当事者間に争いのない事実を綜合すれば、従前の原告所有土地はいわゆる藤棚商店街の東側入口角地に位置し、その宅地の東側突端部分に接する路上に交番が置かれていたものであるところ、被告横浜市長は本件区画整理にあたり昭和二十一年十月一日付復計第百九十八号戦災復興院計画局長・建築局長通牒に従いこれを道路上に設けることをさけ宅地内に収去することとし、前記換地予定地指定に際し従前の原告所有地に対する換地予定地として前記の如く藤棚町一丁目九十五番地宅地二百十一坪四合七勺を指定すると共に右交番用敷地のため従前の原告所有宅地に右原告の換地予定地の東側に接し、東端十四坪を公共小施設敷として指定したこと、ところがこれに対し原告が従前の土地が角地であつたものであるから換地も又角地にしてほしい旨の申出があつたため被告横浜市長は右公共小施設敷十四坪より六坪をさき交番用敷地と原告の前記換地予定地との間に公衆の通行の用に供するため幅員二米の通路六坪を設定したこと、そのため右公共小施設敷は八坪となつたため、右公共小施設敷東側道路となるべき部分より四坪をとり、これを公共小施設敷に加え十二坪としたこと、その後本件換地処分並びに特別処分の決定をなし被告神奈川県知事の認可を受ける前測量の結果原告の換地予定地は誤差が発見せられ二百十一坪三合六勺と訂正せられたものであることが認められる。

二、ところが原告は被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分は原告主張の請求原因第二項の(一)乃至(六)の瑕疵が存するものである旨主張する。よつて順次これを判断するに、

一、第二項の(一)の耕地整理法第三十条第一項本文違反の主張につき按ずるに、

特別都市計画法にもとづく土地区画整理については耕地整理法が準用せられるものであるから、右土地区画整理における換地処分は耕地整理法第三十条第一項本文により従前の土地の地目、地積、等位等を標準としてなされねばならないものであるが、又同条同項但書は地目、地積、等位等をもつて相殺をなし得ない部分については金銭を以て清算すべき旨を定めている。そこで右第一項本文及び但書を綜合して考えれば換地処分は地目、地積、等位等を綜合して従前の土地と等価値の土地を交付すべきことを要請せられるものではあるが、土地区画整理による土地の宅地としての利用増進のための諸施設の設置並びに拡張からくる制約及び技術的困難等からして右要請は現実には満されず、従前の土地と換地とのあいだには或程度の不均衡を生ずることを予想し、かかる或程度の不均衡は已むを得ざるものと認容し、その不均衡については金銭をもつて清算せしめんとするものであると認められる。そして特別都市計画法第十六条(昭和二四年五月一六日法律第七一号をもつて改正)は右趣旨を受け、従前の土地と同価額の土地を交付すべきことを前提としつつ、従前の土地の地積より減少せしめられた換地の交付を受けた場合といえどもその土地区画整理の施行により土地区画整理施行地内に於ける施行後の宅地価額の総額が施行前の宅地価額の総額に比し減少した場合に限りその減少した額について補償金を交付して清算すべき旨を規定し、右宅地価額の算定方法につき同法施行令第三十七条は「土地区画整画施行後の宅地価格の総額は施行前の宅地価額の平均額に施行後の宅地々積の数を乗じて得た額に施行による宅地利用の増進率を乗じて得た額とする」旨を規定してる。

しかりとすれば特別都市計画法による土地区画整理における換地処分は必ず従前の土地と地目、地積、等位等全く同一の土地を交付せねばならねことを要求するものではなく、合理的な理由がある限りこれと異なる換地処分をなし得るものであり、しかもかかる場合においては従前の土地の価額と同一の価額の土地を交付すべく、しからずしてその価額を減ずる場合始めて補償金を交付してこれをなすべき旨を定めているものというべきである。

よつて被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分につき検討するに、

従前の原告所有土地二百五十九坪三合がいわゆる藤棚商店街東側入口に位置し、別紙添付図面赤線(注、本書ではて表示太字線をもつした。)で表示の如くその形状はほぼ角錐面をなし、三方が道路に面していたものであつたこと、本件換地処分により前記の如くその地積は四十七坪九合四勺を減歩せしめられ二百十一坪三合六勺となり、その形状は別紙添付図面黒線で表示の如き梯形状となつたこと、又別紙添付図面黒線で表示の如く原告が換地として交付を受けた宅地の東側商店街の入口にあたる突端部分に本件特別処分により設定された幅員二米の通路をへだてて同じく本件特別処分により交番用敷地として公共小施敷が設定されたことは前記の如くである。

しかして証人鎌田譲の証言によりその成立の認められる乙第九号証の二、証人久保田博の証言によりその成立が認められる乙第十五号証、証人鎌田譲、同東山暁、同久保田博の各証言を綜合すれば、本件区画整理は宅地の利用価値を増大せしめるため従前八米の道路を十一米に拡張し、かつ公共小施設を設置すること等を目的としてなされたものであること、その結果右区域内の従前の宅地に対する減歩率は平均二割七厘位であつたところ、原告の宅地の減歩率は一割八分八厘であつたこと、右の結果従前の原告所有土地は前記の如く四十七坪九合四勺を減じたもののその価額は特別都市計画法施行令第三十七条の法意に添うものと認められるいわゆる路線価式評価(乙第十五号証記載)による計算の結果その施行前は三百四十二万二千三百三十五円であつたところ、その施行により三百四十八万一千九十五円となつたもので、従つて三万八千七百六十円の価額増加を生じたものであることが認められる。

しかして更に原告は本件特別処分により設定せられた交番用敷地である公共小施設敷並びに通路により原告が換地として交付を受けた前記宅地は商店街として利用するに頗る困難なものとなり、その価値が減損した旨主張するものである。

しかしながら前顕甲第四号証、証人徳田倉一の証言によりその成立が認められる甲第二号証、証人小泉三郎の証言によりその成立が認められる甲第三号証、第五号証、証人常盤浄の証言によりその成立が認められる甲第六号証、証人徳田倉一、同常盤浄、同小泉三郎の各証言中には右主張に添う如き記載並びに供述部分があるけれども、これを措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はなく、むしろ前記の交番用敷地の設定理由並びに通路設定の経緯及び原告は本件特別処分の結果設定せられた公共小施設敷並びに通路を考慮してもなお従前の土地の価額より大なる価額を有する土地を本件換地処分により交付せられているものであるとの事実等よりすれば原告が本件特別処分を受けたことについては合理的な理由があつたことが認められる。しかりとすれば被告横浜市長のなした本件換地処分並びに特別処分は何ら耕地整理法第三十条第一項本文に違反するものではない。なお前顕甲第三号証、第五号証、第六号証、証人小泉三郎の証言によりその成立が認められる甲第七号証の一、二、第八号証乃至第十一号証、第十二号証の一、二及び証人徳田倉一、同常盤浄、同小泉三郎の各証言によれば、原告は前記公共小施設敷の指定に対し異議を述べ、本件区画整理藤棚地区協議会においては右異議を取上げなかつたものの、警察当局と原告との間に了解がつけば前記公共小施設敷と他の敷地とを交換することは反対するものではないとの結論を得たこと、その結果原告は戸部警察署長並びに市警本部と種々交渉をなし、代替地として藤棚町一丁目五十二番地宅地十四坪九合八勺を買受け、又は自己所有の同所九十四番地宅地四十坪をそのために提供し得る用意をしたが、結局警察当局の諒承を受けることができなかつたことが認められ、証人小泉三郎、同常盤浄の証言中右認定に反する部分は措信し得ない。しかしながら右事実をもつてするもなお本件換地処分並びに特別処分をもつて合理的な理由を欠く処分とすることを得ないものであるから、前記認定を左右するものではない。

しかりとすれば原告の本主張は理由がないものというべきである。

二、そこで第二項の(二)の耕地整理法第三十五条違反の主張につき按ずるに、

被告横浜市長が何らの通知をなすことなく本件換地処分並びに特別処分をなしたものであることは被告等の明らかに争わざるところである。

しかしながら耕地整理法第三十五条は耕地整理に関する書類の送付を要すべき場合において、その送付を受くくべき者の住所又は居所の不分明な場合に関する規定であり、都市計画法の特例を定めた特別都市計画法にもとづく土地区画整理における換地処分においては、別段の定めのない限り耕地整理法第十七条により地方長官が認可し之を告示したときに効力を生じ従前の土地に対する所有権は換地として交付せられた土地に存続することとなるものであり、それ以前に換地処分につき従前の土地の所有者に対し通知を要するものではない。又本件特別処分は後記説明のとおり特別都市計画法第二十八条による同法施行令第四十四条にもとづくものであり、これも又地方長官の認可、告示により効力を生ずるものであり、これ以前にその特別処分につき従前の土地所有者に通知を要するものとなす何らの規定も存しない。

そうするといずれも従前の土地所有者に何らの通知を要するものではないから、右通知のないことをもつて本件換地処分並びに特別処分をもつて憲法第二十九条に違反する違法な財産権の侵害行為ということを得ず、又耕地整理法第三十五条の法意に反するものではない。

しかりとすれば原告の本主張も又理由がないものというべきである。

三、次に第二項の(三)の特別都市計画法第七条第二項違反の主張につき按ずるに、

特別都市計画法第七条第二項は同条第一項による過小宅地に対し従前の地積より地積を増して換地を交付するため大なる地積を有する宅地の地積を減じて換地し得る旨を規定したものである。

しかしながら原告の提出援用にかかる全証拠によるも本件換地処分並びに特別処分が特別都市計画法第七条によりなされたものと認めることはできず、むしろ証人鎌田譲、同東山暁の各証言によれば本件換地処分は前述の如く耕地整理法第三十条第一項にもとづきなされたものであり、かつ又本件特別処分は特別都市計画法第二十八条による同法施行令第四十四条にもとづきなされたものであることが認められるものである。

しかりとすれば本件換地処分並びに特別処分が特別都市計画法第七条第二項にもとづくものとしてなす原告の本主張はその余の点を判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

四、よつて更に第二項の(四)の耕地整理法第四十四条第一項違反の主張につき按ずるに、

耕地整理法第四十四条第一項本文は特別の価値又は用途のある土地は土地所有者及び関係人の同意を得るにあらざればこれを耕地整理組合の地区に編入し得ざる旨を規定している。しかして右特別の価値ある土地とは、例えば陶磁器用の粘土を産する土地の如く価値の高低により決するに非ずして性質上他の土地を以て代用し得ざる土地をいい、特別の用途ある土地とは特別なる工作物の使用に供せられる土地の如きものをいうものであり、商店街の角地にある土地というが如きは右のいずれにも該当せざるものと解すべきである。

しかりとすれば原告の本主張はその余の点を判断する迄もなく理由がないものというべきである。

五、そこで更に第二項の(五)の都市計画法第十五条の三、同法施行令第二十条の三、同条の四違反の主張につき按ずるに、

都市計画法第十五条の三は土地区画整理の施行により道路・広場・公園其の他公共の用に供すべきものとなりたる土地は勅令の定めるところにより国又は公共団体の所有地に之を編入する旨を規定し、同法施行令第二十条の三及び同条の四は公共の用に供すべきものとなりたる土地の種類及びこれが帰属主体を定めたものであるが交番用敷地は右のいずれにも属せざることは原告主張の如くである。

しかしながら成立に争いのない乙第三号証、第六号証、前顕乙第二号証の一乃至四、証人鎌田譲、同東山暁、同久保田誠三の各証言を綜合すれば、本件特別処分は耕地整理法第三十条第一項にもとづくことを得ざるものであつたため特別都市計画法第二十八条による同法施行令第四十四条にもとづき、その手続を定めた横浜市特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程(乙第三号証)第十一条に従い、被告横浜市長において昭和三十年三月二十八日藤棚地区土地区画整理委員会の意見を聞き同日被告横浜市長の原案を適当と認める旨の同委員会の答申を得てなされたものであることが認められる。

しかして特別都市計画法第二十八条、同法施行令第四十四条は都市計画法の特則である特別都市計画法にもとづく土地区画整理に際し、交通、衛生、保安等に関し公共の安寧を維持し又は公共の福利を増進するために必要にしてかつ都市計画法に規定なく、又耕地整理法を準用し難い場合、即ち右区画整理の目的を達成するため新らたに都市計画法第十五条の三同法施行令第二十条の三以外の公共の用に供すべきものとなりたる土地、又は交番の如き公用の建物等で当該区画整理に係る地域内の住民の利便に供するものの用に新らたに供すべきものとなりたる土地を設定確保する場合を規定するものである。

しかりとすれば本件特別処分は都市計画法第十五条の三、同法施行令第二十条の三、同条の四にもとづくものではなく、又横浜市特別都市計画事業復興土地区画整理施行規程第十一条は特別都市計画法第二十八条、同法施行令第四十四条による適法なものであるから原告の本主張はその余の点を判断する迄もなく理由がないものというべきである。

六、よつて最後に第二項の(六)の憲法第二十九条違反の主張につき按ずるに、

被告横浜市長が特別都市計画法第二十八条、同法施行令第四十四条にもとづく本件特別処分により従前の原告所有土地に前記公共小施設敷並びに通路を設定したものであることは前記の如くであり、これが原告の財産を公共のために用いた場合に該当するものであり、又特別都市計画法第四十四条につき特段の補償規定の存しないことは原告主張の如くである。しかしながら特別都市計画法、同法施行令及び耕地整理法の各規定を通覧すれば特別都市計画法第二十八条による同法施行令第四十四条の特別処分は従前の土地所有者が従前の土地と等価値又は同価額の土地を換地として交付を受ける場合又は金銭をもつてその減少宅地価額の損失補償を受ける場合にのみこれをおこないうるものと解すべきものである。

しかりとすれば特に本件特別処分についてのみ重ねて補償規定をもうけることを必要とするものではないから、これをもつて憲法第二十九条に違反する規定とすることはできない。しかして、被告横浜市長が本件特別処分それ自体につき原告に対し何らの補償をもなさなかつたことは被告等の明らかに争わざるところである。

しかしながら原告は前記の如く本件特別処分の対象となつた土地を含む従前のその所有土地の換地として本件換地処分により従前の所有土地の価額以上の価額を有する土地の交付を受けているものであるから、既に憲法第二十九条所定の正当な補償の要請は充たされているものというべく、さらに被告横浜市長において本件特別処分に際し、重ねて原告に対しこれが補償をなすべき必要性もないものである。

しかりとすれば被告横浜市長の本件特別処分は憲法第二十九条に違反するものではないから原告の本主張も又理由がないものというべきである。

三、以上の如く被告横浜市長の本件換地処分並びに特別処分は適法であり何ら違法とすべき瑕疵の存するものではないからこれに対する被告神奈川県知事の認可処分も又適法というべきである。そうすると原告の本件請求はこれを失当として棄却すべきであるから訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 久利馨 石田実 篠原昭雄)

藤棚町一丁目九四番地附近整理前後の対象図〈省略〉

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